会誌(JHAC)アーカイブ
JHAC 22号
透析クリニック開設に伴う病院経営に関する検討
社会医療法人社団三思会東名厚木病院 医務部長 血管外科
小島 淳夫
267床の急性期病院である当院は55床の透析施設を併設し,平成27年度末の透析患者数は146人であった。平成25年1月に,当法人が隣接する町に開設した透析クリニックは,ベッド数40床,27年度末の透析患者数は81人であり,病院に比べて平均年齢は低く,透析期間は短かった。27年度におけるクリニックからの紹介患者数は78人で,66人が透析関連の症例であった。今後,年齢上昇や透析期間延長に伴って紹介患者数増加が予想され,病院の体制改革,他施設との連携強化が必要である。
病院経営につながる医療福祉相談室業務のありかたについての一考察
~BSC(Balanced Score Card)を用いた業務分析~
社会医療法人社団三思会東名厚木病院 医療福祉相談室 課長
福田 美香
病院経営につながる医療福祉相談室業務を検証するために,外部環境調査として,2次医療圏内の施設数と医療ソーシャルワーカー(Medical social worker以下MSW)が介入した,5年間の紹介元と転帰先の件数を比較した。また,過去5年間の相談室の年間業務計画と実績をBSCの戦略マップとスコアカードに再構築し分析した。結果,2次医療圏内で最も多い施設数と,MSWが退院調整した紹介元件数の多い施設が比例した。また数値目標と業務行動を示した年度計画では,医療福祉相談室依頼書の件数と,退院調整加算算定実績が増加したことがわかった。戦略マップは,MSWが今後,病院の機能を維持しながら,地域包括ケアシステム構築に役立つことを明らかにした。
救命救急センター事務課における患者トリアージシステムの質向上と
患者安全の検討
社会医療法人財団慈泉会相澤病院 救命救急センターER事務課 課長
草間 昭俊
北米型ER救急医療システム(北米型ER方式)をとる救急外来では,一次·二次·三次救急の多様で多彩な患者が多数来院することから,緊急度·重症度の判断と選別(トリアージ)が必要である。ER事務員が,多職種協働の一員として院内トリアージシステムの質向上への取り組みに積極的に参加することは,医療の質と患者安全向上に資することであり,すべての救急患者を安全かつ効率的な診療を行ううえで大きな役割をもつ。
人工膝関節全置換術後の入院日数8日間の妥当性に関する検討
こぼり整形外科クリニック 事務長
天野 愛
当院における人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:TKAという)施行患者の入院期間は約8日間である。これは当初の約12日間と比較して 日間の入院期間短縮である。この入院日数の妥当性を,質問紙調査,歩行能力評価,医療費から検討した。その結果,患者側視点の入院日数に対する不満はなく,医療側視点の術後経過に悪影響はなかった。医療費の削減にもつながり,8日間の入院日数に妥当性はあると考えられた。
経営改革プロジェクト推進による組織の質向上と事務職の役割
製鉄記念八幡病院 経営管理部 経営企画課 係長
秋吉 裕美
地域包括ケアシステム構築に向けた医療制度改革により医療を取り巻く環境は激変した。当院においても,2014年度から事業計画を推進することとなり,同時に新たな使命と理念,2025ビジョンを策定し,病院激戦区での経営存続のため,経営改革に着手した。「医療の質·経営の質向上」を目的とした患者フロー構築プロジェクトからの関連プロジェクト同時推進と,そのシナジー効果や組織の質向上の成果,改革推進の事務職の役割について報告する。
JHAC 21号
地域医療の機能分担,連携の病院経営に与える影響と
今後の医療提供体制の一考察
岩手県立二戸病院 事務局次長兼地域医療福祉連携室次長
十和田 順子
国では,医療機関の機能分担と連携に基づき二次医療圏を基本とした地域完結型の医療提供体制を推進している。公立病院である当院は,二次医療圏における救急医療,がん治療,周産期医療等の高度専門医療が使命であるが,圏域内の医療資源の不足が,役割分担に基づく経営の効率化と収支に影響している。当院を機能性の観点からベンチマークし,医療資源の増強が困難で医療需要も先細りが予測されるなかで,医療過疎地域の1例として医療提供体制のあり方を提言する。
配賦による原価計算の問題点
公益財団法人磐城済世会松村総合病院 理事長秘書
松村 耕平
近年の医療費財源の切迫を背景とした度重なる医療費抑制政策の制度環境の中で,原価の把握と管理の重要性が医療界においても重要視されている。現在の原価計算は一定の配賦基準に基づいた按分計算を用いたものが一般的であるが,この方法では実際にかかった原価とは誤差が生じてしまい,これを経営指標とするのは危険と言える。原価計算を行うに当たっては配賦による原価計算ではなく,実際にかかった原価を求めることが重要である。
当院における大腿骨頚部骨折地域連携パス導入の効果
社会医療法人社団三思会東名厚木病院 医務部医員
中 正剛
医療機関の機能分化とともに,従来の施設完結型から地域完結型医療へと変わりつつある現在の地域医療において,施設の垣根を越えた地域連携パスは必要不可欠なツールとなっている。当院では,2014年2月より大腿骨頚部骨折地域連携パスを導入したので,その効果につき若干の考察を加えて報告する。
退院時要約(サマリー)記載後の他職種によるアクセス状況の可視化
社会医療法人財団慈泉会相澤病院 診療情報管理センター
武井 哲也
退院時要約(サマリー)は,1入院ごとに作成される診療経過の要約であるが,その本来の役割は,医療者間の適切な情報共有のツールとして,医療の質と患者安全の向上に資することにある。完成した退院時要約へのアクセスログを可視化することで,救急現場で診療する医師が,情報収集に活用している実態が明らかとなり,その必要性を再認識することが可能であった。
JHAC 20号
東日本大震災後の当院の取り組み
岩手県立釜石病院事務局総務課長
尾形 健也
平成23年3月11日に発生した東日本大震災は,甚大な被害をもたらした。当院は,以前から指摘されていた耐震構造の問題から入院患者を転院させ,また,被災直後からの2日間にわたる停電により使用電源が制限される中,各方面からの支援をいただきながら救急患者の受け入れと連携病院への後方転院搬送を行った。3年を経過した今,釜石医療圏において中心的な役割を果たしてきた当院が,この経験から得た教訓と課題に対しどのように取り組んできたかを検証し報告する。
病院事務職員の人材育成とプロフェッショナリズム
~職員満足度の向上と自己目標管理の視点を加えて~
岩手県立二戸病院 事務局総務課長
藤澤 正志
事務職員の満足度調査の結果による回答内容を示しつつ,より満足度を上げ充実感を得る手段として,岩手県立病院全体の新しい経営計画と自己目標を結び付けていく方法や職場風土の醸成等について提案する。
考察に当たり,岩手県立病院における事務職員の人材育成プラン策定PCメンバー,いわてイーハトーヴ臨床研修病院群事務WG代表として経験したことから,病院事務職員の人材育成のあり方を考察する。
がんの地域連携クリティカルパスは有用か?
-肺がん地域連携クリティカルパスの運用を通しての評価-
筑波メディカルセンター病院 地域医療連携課 課長
堀田 健一
当院では,がんの地域連携クリティカルパス(以下,連携パス)の運用を2011年より開始した。3年間の適用件数は76例であるが,そのうち73例を肺がんの連携パスが占めた。運用実績の検証によりその認容性を認めた。また,肺がんの連携パスの適用患者および連携医を対象に行ったアンケート調査の結果より,一定の有用性を認めることができた。今回の研究により,これまで想定していなかったメリットや新たな課題も明らかとなった。
看護部におけるバランスト·スコアカードの運用
東名厚木病院 看護部看護部長
伊藤 玲子
医療を取り巻く環境が激しく変化する中で,戦略的経営システムとしてバランスト·スコアカード(以下BSC)を導入している病院は多い。BSC は組織の向かう方向を明確にする。しかし,BSCを効果的に運用するには,活用する管理者の理解が不可欠である。
今回,看護部においてBSCの有用性を再認識し,因果連鎖を重視した運用の取り組みとその効果について報告する。
働き方の多様化による就労構造の変化と今後の課題
社会医療法人財団慈泉会相澤病院人事課課長
粟津原 剛
自分の生活を重視しながら働きたいという働く側の意識の変化に対応した雇用形態の導入や,育児·介護を行う労働者への支援策を講じた結果,人員の確保および出産を理由とする離職の減少については一定の成果を得た一方,働き方の多様化によって就労構造の変化が起こっている。今後も進む働き方の多様化のなかで,労働時間や業務に制約のある職員をどう活かしていくか,また,今後高齢化が進む中で懸念される介護離職への対応も課題である。
慢性期の高度医療への取り組み
医療法人田中病院 事務課 課長補佐
高尾 泰則
平成26年の診療報酬改定で一般病棟入院基本料の7対1及び10対1においても,入院期間が90日を超える患者の特定除外制度が廃止された。障害者病棟には,急性期病院からの人工呼吸器装着患者等のより医療度の高い患者を受け入れる役割が求められており,在宅復帰を推進する役割も求められている。三重県南勢地区の医療状況を踏まえ,当院が地域医療を健全に維持していくための取り組みについて報告する。
JHAC 19号
当院の運営方針の転換
岩手県立久慈病院 事務局総務課 総務課長
鎌田 正治
精神科医療は,医療という大きな括りの中では,その症状·性質等からどちらかと言えば裏(影)の部分の存在であったと思われる。しかし,今般,医療法の改正等により精神科医療と,その精神科医療とも大きな関わりがある在宅医療が,主要5疾病6事業に組み入れられることとなり,精神科医療は,他の4大疾患と並列とされた。当院は一般診療科と精神科を併せ持っているが,精神科単科時代の過去の負の遺産(累積赤字)をそのまま背負い続けていたことから,長い間赤字経営に苦しんできた。国のこの方針は,当院の今後にとって大きな方向転換の時期であり,またとないチャンスである。
当院が今後,生き残っていくために必要な展開方法について施策した。
人事考課制度
社会医療法人社団三思会東名厚木病院 法人本部 管理部課長
杉田 章
近年,病院経営は厳しい状況にあるのは周知のことと思われる。2000年~2012年の医療機関の倒産件数は437件というデータが示す通り,多くの病院が倒産する時代である。理由は医師不足,看護師不足,患者の選択意識の高まり(大病院への集中),2006年度の診療報酬の改定(引き下げ)など,病院の置かれる経営環境は悪化している。
当院は267床という,厚労省がもっとも不必要と考えていると思われる病床数群に位置しているため,生き残りをかけ大病院以上の経営努力を行う必要がある。病院経営で重要な因子として一番に挙げられるのが「人材」である。今回は「勝ち組」として生き残るために,経営に即した人材を育成する人事考課制度について検討を行った。
財務情報の視覚化による経営状態の把握
―損益計算書とキャッシュ·フロー計算書を用いて―
安曇野赤十字病院 事務部経営企画課課長
三浦 裕之
財務情報などにより自病院の経営状態を的確に把握することは病院経営の第一歩である。本稿では数値の羅列になりがちな財務情報を散布図に表し,自病院の時系列的変化と外部データを用いた他病院比較に工夫を凝らした。減価償却費のように資金の流出を伴わない費用は直感的に理解しにくいが,損益計算書に加えてキャッシュ·フロー計算書も利用することで,医業活動に必要な資金の動きが把握できることを示唆した。
病院情報システムを活用した医療安全管理の取り組み
~情報共有に焦点をあてたシステム運用~
医療法人仙養会北摂総合病院 臨床検査科 検体検査係 係長
坂部 博志
近年,様々な医療機関にて多様化する情報に対し,病院経営,医療の質,安全,効率化の一助となることを目的に,電化カルテを代表とする情報システムが導入されている。
しかしいざ導入すると,かならずしも医療機関側の思惑にそわず,医療者の使い勝手の悪いシステムが提供されるという実態がある。
当院も2006年から病院情報システムを導入した。一部のシステムでは前述するような事態に遭遇したが,既存の病院情報システムの限界を理解し,改善と有効活用により,現在までに十分な機能を果たしてきたと思われる。今回一連の病院情報システムの活用の中で,とりわけ患者安全における情報共有を中心にした取り組みについてを報告する。
『臨床工学部門で行う中央管理によるメリット』
社会医療法人生長会ベルランド総合病院 管理部,診療技術部 副部長
村中 秀樹
病院には医療機器や診療材料など,その業務を行うにあたり必要となる物品が多数存在する。しかしすべての物品が各現場に備わっている状況を構築できていない。医療機器においては臨床工学技士による中央管理によって,効率的で安全な運用が行われつつある。しかしながら,診療材料に関しては依然として医師や看護師が探し回っている状況が散見され,その時間は患者にとって不利益以外の何物でもない。今回,医療機器と同様に診療材料の中央管理も行うことでコストの削減と,医師や看護師の精神的負担の軽減とともに質の高い安全な医療の実践にも寄与することができた。
JHAC 18号
DPCに対応したクリニカルパスの見直しについて
福井赤十字病院 医療情報課長
川島 勇一
近年の医療機関の経営には,地域や患者のニーズに合致した質の高いサービスの提供と事業を継続していくために必要な利益を確保するための合理的なサービスの提供が求められている。これは,コストの増加とコストの縮減を同時に求めるものであり,経営的には相反する取り組みである。当院では,DPC準備病院·DPC病院への参入を契機にクリニカルパスの見直しを行い,標準的な医療の提供と適切な収益の確保を目指した。本稿では,その経過と効果について報告する。
医事課における組織改革
-パラダイムシフト-
相澤病院 病院事務部門 副部門長
鳥羽 嘉明
医事とは医療事務の略語であるが,医療における事務とはどのような職種なのか,また医事課とは組織においてどのような役割を果たしているのか,改めて医事業務のあり方について考えてみたい。
これまでの診療報酬は一貫して引き上げを堅持してきた歴史があるが,2002年度の診療報酬改定では診療報酬全体をマイナス2.7%と,過去最大の引き下げ幅を決定した。このマイナス改定以降,どの医療機関も経営改善を余儀なくされ,医事業務のあるべき姿,定義について大きく変化してきた。
このような医療情勢に対応すべく,当院がおこなった医事課における組織改革-パラダイムシフト-とその成果について報告する
回復期リハビリテーション病棟の取り組み
近森リハビリテーション病院 事務長
内田 陽子
平成24年診療報酬改定で回復期リハビリテーション病棟入院料は3区分になり,上位ランクの入院料1が新設された。回復期リハビリテーション病棟には,急性期病院からより重症の患者を受け入れ,在宅復帰を促進する役割が求められており,厳しい施設基準が設けられた。回復期リハビリテーション病棟の質がますます問われる改定となった。高知県の医療情勢を踏まえ,当院が健全経営を維持していくための取り組みについて報告する。
看護職の職場環境改善への取り組み
大分市医師会立アルメイダ病院 人事課長
恵良 鎮豊
病院では職員が働く職場環境を常に改善していかなければ,厳しい医療現場で職員の心と体は疲弊してしまい,最後には病院を離職してしまう。とくに看護職員の入れ替わりは一般的に激しいとされ,人材流出に歯止めをかけられず,さらに人材確保が滞れば,手厚い看護が要求される看護の現場で,看護職員が充足されず,その結果,患者を危険にさらす可能性もある。当院が平成18年より継続して行った,看護職員への職場環境改善の取り組みを検証しここに報告する。
中頭病院における病床マネジメント
社会医療法人敬愛会 中頭病院 臨床研修センター課長
大城 学
医療崩壊や地域医療連携など,医療情勢が変化する中で,地域の医療ニーズや要望に応えるように,組織の成長を行ってきた。しかし,患者数やニーズが増える一方で,医療計画に基づく病床数の問題により,病床利用率がここ数年100%を超える状況が続いている。医療療養環境の改善や病院経営にも直結する課題に対し,組織が一丸となって取り組んだ対策について報告する。