会誌(JHAC)アーカイブ
JHAC 24号
入院前面談(外来から始まる入退院支援)の課題と展望
横浜市立市民病院(横浜市医療局病院経営本部)新病院推進課長
神内 浩
患者・家族が安全に入院中の治療を受け,退院後に安心して住み馴れた地域に帰る事を目的に,当院では平成26年度からPFM(Patient Flow Management)の体制を整備してきた。平成30年度診療報酬改定では,入院前からの患者支援に対する加算が新設され,これまでの取組に対する一定の評価がなされた事を受け,当院での入院前面談の課題と今後の展望について考察する。
エネルギー供給システム,コージェネレーションシステムの効果検証
社会医療法人大雄会 法人本部 総務課 施設管理グループ
杉本 政夫
当院におけるエネルギー供給システムのひとつであるコージェネレーションシステム(コージェネと略す)の省エネルギー効果について発電電力,排熱利用といった電気エネルギー,熱エネルギーの有効利用により,環境問題の面から一次エネルギー原油換算削減量(省エネ量と略す)について,エネルギーコストの面から病院経営に与える影響について,実測したデータをもとに,コージェネを導入していない「従来方式」と「コージェネ方式」を比較してその効果を検証した。
病院新築移転と祝日開院による労働生産性への影響に関する考察
大阪府済生会野江病院 副事務部長
田上 肇
これからの病院は労働人口減少の限られた医療資源の中,人員確保と同時に効率的な医療も求められていく。労働集約型の病院がこの環境の中で,多様化する患者ニーズに応え得る医療を提供して持続的な経営を行うには,労働生産性が重要な指標となる。単に数値の改善を追求するのではなく,インプットとアウトプットとのバランスが大切であり,そこには人が継続して働くことができる環境整備がなければならない。労働生産性は「あるべき姿」に向かうための指標として重要なポイントを見出すことができる。
奥出雲町の地域包括ケアシステムはこうつくる
―「地域医療連携推進法人」は利用可能か―
町立奥出雲病院 病院長
鈴木 賢二
わが国の医療・介護の環境変化に対応するために地域包括ケアシステムの構築が急がれている。国は医療・介護制度の持続可能性確保と成長の観点から地域医療連携推進法人制度を創設した。医療情勢や奥出雲町の医療介護の現状,地域包括ケアシステムの内容,地域医療連携法人制度の仕組みを精査し分析した結果,奥出雲町での地域包括ケアシステムの推進にこの制度を使うことはガバナンスを機能させながら連携を推進するという観点から有効なツールであると結論した。その際,法人の理念・目的を明瞭にした上で医療の立場から行政に 制度づくりを強く働きかけなければならない。
総合病院における高額医療機器導入の貢献利益を簡便に試算する方法の
検討
〜人件費の扱いについて〜
社会医療法人近森会近森病院 管理部 診療支援部施設用度課
宮下 公将
高額備品を購入する際には管理会計にて貢献利益および損益分岐点を試算することが望ましい。しかしながら,総合病院では多くの職員が1日の中でもさまざまな場所で勤務していることから,人件費を固定費として該当部門に配賦することは非常に煩雑な作業である。そこで今回,人件費を簡便に試算する算出式を検討し,当院の実例にあてはめて,投資判断として使用するのに有用な数値が算出できるかどうかを検証した。
JHAC 23号
地域包括ケアシステムにおける地域医療連携部門の再構築が病院経営に与える影響の一考察
福井赤十字病院 地域医療連携課長
青柳 芳重
当福井県においては,急性期病棟と療養病棟を削減させる方向で地域医療構想を進めており,地域包括ケアシステムの構築も徐々に進んでいる。当院においては,地域医療連携部門が中心となり,入院早期から医療と介護の連携による退院支援を強化し,入院早期にカンファレンスを開催して,退院支援の方向性の検討,退院支援計画の協働立案を行うことで,適正な時期による退院を目指して取り組んできた。その結果,地域医療連携部門の役割が病院経営にどう影響したかを報告する。
心不全入院患者の在院日数短縮対策に関する検討
∼多職種協働による退院支援·退院調整体制の整備∼
社会医療法人財団慈泉会相澤病院 看護部副部長
伊藤 紀子
心不全入院患者の在院日数短縮のため,当院循環器病棟での多職種協働による退院支援·退院調整体制の問題点について調査·検討した。その結果,高齢者が多く,退院調整開始時期の遅延が要因のひとつであった。多職種カンファレンス開催方法の変更などの取り組みを行った結果,平均在院日数は,3年間で4.5日短縮した。循環器病棟では,入院早期からの多職種協働による退院支援·退院調整体制の整備が重要である。
画像診断管理加算算定が病院経営に与える影響と
放射線科医師の労働時間の検討
長野県厚生農業協同組合連合会小諸厚生総合病院 診療医師部放射線科部長
丸山 雄一郎
画像診断管理加算から画像診断管理加算 に変更することによる病院経営に与える影響と放射線科医師の労働時間の関係について検討した。加算1から2に変更し,CT·MRI·RIに加えて単純X 線写真の読影も積極的に行うことで年間28,401,400円収入は増加した。業務量の増加で放射線科医師の労働時間は延長し,時間外労働手当として914,000円支出も増加したが,年間27,487,400円の純利益が得られた。加算2の算定は病院経営に大きく資することが示されたが,労働環境の悪化を免れない。地域中核病院においては放射線科医師を 名以上雇用して加算2を算定することが望ましい。
耳鼻咽喉科·頭頸部外科外来における完全紹介制導入の成果の検証
公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院
医療支援·経営管理部門医事診療サービス部外来医事課
飯尾 正人
現在2025年に向けた地域医療構想のなかで医療機能分化による病床再編が強く謳われている。そのなかで当院は地域における高度急性期基幹病院として存続しつづけ,地域医療を守ることが自らの役割であると自負している。この役割を果たすための喫緊の課題として,膨張した外来の縮小が挙げられる。軽症な患者を地域の連携医療機関に任せ,重症な紹介患者を受け入れる地域連携のさらなる強化が不可欠である。今回これらの課題解決が急務となった当院の耳鼻咽喉科·頭頸部外科外来において,完全紹介制を導入した。その成果を検証した。
当院の周産期医療体制に関する考察
―当院における母体·胎児集中治療室の必要病床数―
医療法人社団愛育会福田病院 診療情報管理室室長
村田 泰章
平成28年熊本地震後,当院では熊本県の周産期医療を守るため一般病床をMFICU病床への病床転換やNICU増床へ向けて整備した。そこで,当院のMFICU病床患者の現状把握を行い,入院実績と比較し試算することで,当院で必要なMFICUの最低必要病床数は10床であると算出した。なお,産科診療の特性などを考慮すると,ハード的には12床程度のMFICU病床を確保しておく方が望ましいと判断した。
JHAC 22号
透析クリニック開設に伴う病院経営に関する検討
社会医療法人社団三思会東名厚木病院 医務部長 血管外科
小島 淳夫
267床の急性期病院である当院は55床の透析施設を併設し,平成27年度末の透析患者数は146人であった。平成25年1月に,当法人が隣接する町に開設した透析クリニックは,ベッド数40床,27年度末の透析患者数は81人であり,病院に比べて平均年齢は低く,透析期間は短かった。27年度におけるクリニックからの紹介患者数は78人で,66人が透析関連の症例であった。今後,年齢上昇や透析期間延長に伴って紹介患者数増加が予想され,病院の体制改革,他施設との連携強化が必要である。
病院経営につながる医療福祉相談室業務のありかたについての一考察
~BSC(Balanced
Score Card)を用いた業務分析~
社会医療法人社団三思会東名厚木病院 医療福祉相談室 課長
福田 美香
病院経営につながる医療福祉相談室業務を検証するために,外部環境調査として,2次医療圏内の施設数と医療ソーシャルワーカー(Medical social worker以下MSW)が介入した,5年間の紹介元と転帰先の件数を比較した。また,過去5年間の相談室の年間業務計画と実績をBSCの戦略マップとスコアカードに再構築し分析した。結果,2次医療圏内で最も多い施設数と,MSWが退院調整した紹介元件数の多い施設が比例した。また数値目標と業務行動を示した年度計画では,医療福祉相談室依頼書の件数と,退院調整加算算定実績が増加したことがわかった。戦略マップは,MSWが今後,病院の機能を維持しながら,地域包括ケアシステム構築に役立つことを明らかにした。
救命救急センター事務課における患者トリアージシステムの質向上と
患者安全の検討
社会医療法人財団慈泉会相澤病院 救命救急センターER事務課 課長
草間 昭俊
北米型ER救急医療システム(北米型ER方式)をとる救急外来では,一次·二次·三次救急の多様で多彩な患者が多数来院することから,緊急度·重症度の判断と選別(トリアージ)が必要である。ER事務員が,多職種協働の一員として院内トリアージシステムの質向上への取り組みに積極的に参加することは,医療の質と患者安全向上に資することであり,すべての救急患者を安全かつ効率的な診療を行ううえで大きな役割をもつ。
人工膝関節全置換術後の入院日数8日間の妥当性に関する検討
こぼり整形外科クリニック 事務長
天野 愛
当院における人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:TKAという)施行患者の入院期間は約8日間である。これは当初の約12日間と比較して 日間の入院期間短縮である。この入院日数の妥当性を,質問紙調査,歩行能力評価,医療費から検討した。その結果,患者側視点の入院日数に対する不満はなく,医療側視点の術後経過に悪影響はなかった。医療費の削減にもつながり,8日間の入院日数に妥当性はあると考えられた。
経営改革プロジェクト推進による組織の質向上と事務職の役割
製鉄記念八幡病院 経営管理部 経営企画課 係長
秋吉 裕美
地域包括ケアシステム構築に向けた医療制度改革により医療を取り巻く環境は激変した。当院においても,2014年度から事業計画を推進することとなり,同時に新たな使命と理念,2025ビジョンを策定し,病院激戦区での経営存続のため,経営改革に着手した。「医療の質·経営の質向上」を目的とした患者フロー構築プロジェクトからの関連プロジェクト同時推進と,そのシナジー効果や組織の質向上の成果,改革推進の事務職の役割について報告する。
JHAC 21号
地域医療の機能分担,連携の病院経営に与える影響と
今後の医療提供体制の一考察
岩手県立二戸病院 事務局次長兼地域医療福祉連携室次長
十和田 順子
国では,医療機関の機能分担と連携に基づき二次医療圏を基本とした地域完結型の医療提供体制を推進している。公立病院である当院は,二次医療圏における救急医療,がん治療,周産期医療等の高度専門医療が使命であるが,圏域内の医療資源の不足が,役割分担に基づく経営の効率化と収支に影響している。当院を機能性の観点からベンチマークし,医療資源の増強が困難で医療需要も先細りが予測されるなかで,医療過疎地域の1例として医療提供体制のあり方を提言する。
配賦による原価計算の問題点
公益財団法人磐城済世会松村総合病院 理事長秘書
松村 耕平
近年の医療費財源の切迫を背景とした度重なる医療費抑制政策の制度環境の中で,原価の把握と管理の重要性が医療界においても重要視されている。現在の原価計算は一定の配賦基準に基づいた按分計算を用いたものが一般的であるが,この方法では実際にかかった原価とは誤差が生じてしまい,これを経営指標とするのは危険と言える。原価計算を行うに当たっては配賦による原価計算ではなく,実際にかかった原価を求めることが重要である。
当院における大腿骨頚部骨折地域連携パス導入の効果
社会医療法人社団三思会東名厚木病院 医務部医員
中 正剛
医療機関の機能分化とともに,従来の施設完結型から地域完結型医療へと変わりつつある現在の地域医療において,施設の垣根を越えた地域連携パスは必要不可欠なツールとなっている。当院では,2014年2月より大腿骨頚部骨折地域連携パスを導入したので,その効果につき若干の考察を加えて報告する。
退院時要約(サマリー)記載後の他職種によるアクセス状況の可視化
社会医療法人財団慈泉会相澤病院 診療情報管理センター
武井 哲也
退院時要約(サマリー)は,1入院ごとに作成される診療経過の要約であるが,その本来の役割は,医療者間の適切な情報共有のツールとして,医療の質と患者安全の向上に資することにある。完成した退院時要約へのアクセスログを可視化することで,救急現場で診療する医師が,情報収集に活用している実態が明らかとなり,その必要性を再認識することが可能であった。
JHAC 20号
東日本大震災後の当院の取り組み
岩手県立釜石病院事務局総務課長
尾形 健也
平成23年3月11日に発生した東日本大震災は,甚大な被害をもたらした。当院は,以前から指摘されていた耐震構造の問題から入院患者を転院させ,また,被災直後からの2日間にわたる停電により使用電源が制限される中,各方面からの支援をいただきながら救急患者の受け入れと連携病院への後方転院搬送を行った。3年を経過した今,釜石医療圏において中心的な役割を果たしてきた当院が,この経験から得た教訓と課題に対しどのように取り組んできたかを検証し報告する。
病院事務職員の人材育成とプロフェッショナリズム
~職員満足度の向上と自己目標管理の視点を加えて~
岩手県立二戸病院 事務局総務課長
藤澤 正志
事務職員の満足度調査の結果による回答内容を示しつつ,より満足度を上げ充実感を得る手段として,岩手県立病院全体の新しい経営計画と自己目標を結び付けていく方法や職場風土の醸成等について提案する。
考察に当たり,岩手県立病院における事務職員の人材育成プラン策定PCメンバー,いわてイーハトーヴ臨床研修病院群事務WG代表として経験したことから,病院事務職員の人材育成のあり方を考察する。
がんの地域連携クリティカルパスは有用か?
-肺がん地域連携クリティカルパスの運用を通しての評価-
筑波メディカルセンター病院 地域医療連携課 課長
堀田 健一
当院では,がんの地域連携クリティカルパス(以下,連携パス)の運用を2011年より開始した。3年間の適用件数は76例であるが,そのうち73例を肺がんの連携パスが占めた。運用実績の検証によりその認容性を認めた。また,肺がんの連携パスの適用患者および連携医を対象に行ったアンケート調査の結果より,一定の有用性を認めることができた。今回の研究により,これまで想定していなかったメリットや新たな課題も明らかとなった。
看護部におけるバランスト·スコアカードの運用
東名厚木病院 看護部看護部長
伊藤 玲子
医療を取り巻く環境が激しく変化する中で,戦略的経営システムとしてバランスト·スコアカード(以下BSC)を導入している病院は多い。BSC
は組織の向かう方向を明確にする。しかし,BSCを効果的に運用するには,活用する管理者の理解が不可欠である。
今回,看護部においてBSCの有用性を再認識し,因果連鎖を重視した運用の取り組みとその効果について報告する。
働き方の多様化による就労構造の変化と今後の課題
社会医療法人財団慈泉会相澤病院人事課課長
粟津原 剛
自分の生活を重視しながら働きたいという働く側の意識の変化に対応した雇用形態の導入や,育児·介護を行う労働者への支援策を講じた結果,人員の確保および出産を理由とする離職の減少については一定の成果を得た一方,働き方の多様化によって就労構造の変化が起こっている。今後も進む働き方の多様化のなかで,労働時間や業務に制約のある職員をどう活かしていくか,また,今後高齢化が進む中で懸念される介護離職への対応も課題である。
慢性期の高度医療への取り組み
医療法人田中病院 事務課 課長補佐
高尾 泰則
平成26年の診療報酬改定で一般病棟入院基本料の7対1及び10対1においても,入院期間が90日を超える患者の特定除外制度が廃止された。障害者病棟には,急性期病院からの人工呼吸器装着患者等のより医療度の高い患者を受け入れる役割が求められており,在宅復帰を推進する役割も求められている。三重県南勢地区の医療状況を踏まえ,当院が地域医療を健全に維持していくための取り組みについて報告する。